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6月2日追記

そういえば火曜日のことだ。最近口髭を生やして怪しさが増している山川さんから電話をもらって、その口ぶりが妙に心許なく響くので身体がいよいよ悪くなったのかと心配していたのだけれど、会って話したら全然なんともなかった。

酷い目にあったのはトラのほうで、ある日家に戻ったトラはまたどこかの猫か誰かにやられてきたらしい。「トラ、弱いからよぉ。すぐやられて帰ってくんだもんなぁ。」

毛にはたくさんの血や土がついてたに違いない。どこをやられたのか山川さんが調べると、トラは首の左っかわに直径7cmくらいぽっかり穴があいていた。人の喉仏のあたりの白いのが見えてたくらいでよう、急いで病院連れてったんだ。

一軒めで7万はかかる、感染症にかかっていればもっとかかる。二軒めの病院は、これじゃ(生かす)責任は持てない、と言って匙をなげた。山川さんはトラと帰って、お前の命もここまでかもしれないけどさ、と言って二人っきりになって側にいた。

トラは傷口をぺろぺろ舐めつづけてたそうだ。それこそ、傷口のまわりの毛を全部舐めとってしまい、剥げてぽっかりあいた傷口が見えた。それからどれくらい日が経ったのか聞き忘れたけれど、次第しだいに傷口は小さくなっていき、トラは穴を舐めつづけ、ある日とうとう傷穴は

きれいにふさがっていた。首もとにはまあるい剥げだけ残っているらしい。弱いどころかトラの小さな身体から滲みでた生命力(僕の頭のなかで傷口の縁あたりがぽうっと光ってみえている)に驚くばかり。「トラを褒めてやりに会いに行きたいよ!」と言うと、「だからよぉ、毎日傷のとこをこうやってさすってやってんだよ。お前はえらいやつだってさぁ」

夕方、日に当たって温まったボンネットや車の屋根のうえにのぼって何事もなかったように寝転んでいるトラの姿を想像している。ムツゴロウさんが男の子のチンチンみたいな中指を溶けてこぼれそうな笑顔でクイクイ動かしてみせている。