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曇り。昼前、雪が舞う。

スペースコロニーの最下層は直径20mくらいの円形に縁取られたダストシュートの吐き出し口になっていて、僕は宇宙服を着て縁の手摺の外に立っている。もうどうしようもなくなって自殺を図るところ。本当に底のない暗闇が足元に広がっていて、ぽつぽつと散らばって光っている星に目をやると、涙がこぼれるくらいに眩しい。ジャンプするとコロニーの底(今は閉まっている)に頭をぶつけるだけだから、左足を一歩前へやって重心をかけるようにしてコロニーから離れ、真っ直ぐ足から落下していく。

途端に、酸素がなくなって呼吸ができなくなるだろう瞬間が、それがどれだけ苦しいことなのかわからない、想像もできないが必死に息を吸おうとしてのたうっている自分の姿が浮かんできて今更ものすごい恐怖に囚われる。同時に取り残された人たちが思い出された。もう万策尽きたと諦めてうなだれているいく人かの人々。そんな彼らを見捨てて、一人宇宙に逃げ出した。どっちにしても苦しいのだけど、逃げた。と思った。

これもまた苦しみからの逃避だ、と思いながら背中の噴射孔から断続的にバーナーを噴射して、コロニーの方へと上昇していく(それとも降下してるのか、重力を足元に感じてるのは僕の身体の想定外だからだろう)。街に戻って、そこからどうなったか曖昧だけど、僕は2人の男とともに逃げている。いつのまにか駅のなかにいる。全てが大理石でできただだっ広い空間で、天井がかなり高くアーチ状の柱が何十本も規則的に並んでいる。巨大なステンドグラスが赤や青の光を床に落としている他は、セピア色の影に覆われている。柱数本を挟んで向こうには大理石でできた床の上に、じかにレールが敷かれている。僕らはあたりを見回して、また走り出す。レールが軋む音が反響して和音のようになって、友人の叫ぶ声がほとんど聞こえないくらい構内に響きわたり、トロッコのような、天蓋のない鉄製の列車が追いかけてくる。そのうちの一つに黒く長いコートで身を包んだ背の高い高い男が立っている。僕らの脳みそを奪った男だ。僕らはもう、頭の中は空っぽだ。顔が人形のように、というか人形で生気が感じられないその男はおでこから上がすっぽりなくなっていて、自分の脳のうえに僕ら三人の脳みそを重ねて繋いでいる。そのうえに黒い三角のとんがり帽子を被っている。男は笑っている。脳みそが4つもあるのだ、知能では僕らが及ぶはずもない。ただただどこへ向かうともわからず走るしかない。恐怖におののきながら、頻繁に男のほうを振り返りながら走って逃げるだけだ。

だが、男の剥き出しの脳みそは、剥き出しになっているせいで空気中の菌かなにかに感染したのか、細かい傷がついたのか、脳はあっという間に崩れ、それに気づく間もなく男は笑ったまま倒れた。

あるいは、体育館のようなところで夜だろう、暗いなか階段状にあつらえられた客席に囲まれて舞台がスポットライトに照られている。そこにダウンタウンの2人や他の芸能人みたいな人が数人いて、浜ちゃんはかったるそうに腕時計に目をやり、「いつ終わるねん」と表情で訴えている。なんのパーティーなのかわからないが、観客はそれほど多くなく空席が目立つ。あっというまに片付けの時間になっていて、僕は「けっきょく、これ何の集まりだった?なんていうか、あんまり、盛り上がらなかったけど」と誰にともなく言うと、すれ違いざまに男性が「今日は、風船の日だから」と言った。みると確かに無数の白い風船で体育館は飾り立てられてスポットライトの青い照明を反射していた。

早く家に帰らなきゃ。暗い夜道を走った。芝のグラウンドを囲んだ遊歩道を走っていると、小さな男の子が飛びついてきたのでそのまま負ぶって、ひと言ふた言交わして走るうち、芝の上で真っ暗闇のなかバーベキューをする男女がいたので、子供をその2人に返した。そのまま街中を走るうち、いつのまにかシロヒョウの子どもが一緒に走っている。子シロヒョウは民家の犬や猫みんなにいちいちちょっかいを出して、怯えたり威嚇する猫らの鳴き声が夜に響いた。ふと気づくとコウジ(体重100kgオーバーの巨漢だ)が四つん這いで子シロヒョウを追い回すように走っている。「やめろやめろ!危ないから!」ふざけてるつもりだろうけれど、シロヒョウはそんなでもなく半ば本気で逃げているように見える。「やめろって」

左に大きく曲がる見通しの悪いカーブに差し掛かったところで子シロヒョウはコウジから逃れようと右の反対車線のほうへと走り出し、

「危ない!」

と言うが早いかやってきた自動車の尻にぶつかり、腹から真っ二つになって向こうの歩道に放り出された。頭のほうが、よく公園に置かれているような網あみの護美バコに飛んでいって、スポンと入る瞬間に護美バコに捨てられていた黒い布きれから手が伸びて、子シロヒョウの上半身をキャッチした。林っさんだった。子シロヒョウは「ニャー」と鳴いた。

ボロアパートに戻ると、剛と誰かがいて、僕はポストから封筒を取り出す。そこには「残念!あなたに決まりました」と赤文字で書かれており、今回の水道代の請求書が続いていた。385,000円。水道代は抽選で選ばれた人間が払わなければならないのだ。「こんなん、払えるわけない!おかしいよ」と頭を抱えそうになったら、剛が残りの封筒の束を開け、中の紙に印刷された細かい文字を指差しながら、

「ここにこの記載がないってことは、これはちゃんとして書類じゃない。つまり、詐欺だよ。これ払ったらダメだよ」

と教えてくれた。が、既に玄関の扉の外には体格のいい男が2人忍び寄ってきていて、この金を取りに来ていた。詐欺の仲間だ。僕は扉を蹴破って、アパートの外の洗濯機や自動車のタイヤが積んであるコンクリの廊下みたいな狭いところで男たちを殴り、蹴飛ばし、坊主の巨漢の喉仏に親指を突っ込むかたちで喉輪を決めて、持ち上げる。

最近、こんな夢ばかり見ている。それとまだ夜が開ける前に目が覚めたときに見ていた夢は、今はもう覚えてないけれど起きた瞬間には「あ、これは正夢だ」と思う夢だった。全然劇的でもなければ将来の選択を先取るようなものでもなく、ただの日常の正夢の感触しか覚えてないけれど。映画の見過ぎだろうか。

『007 スカイフォール』『007 慰めの報酬』『インヒアレント・ヴァイス』『FRANK』を観る。ホアキン・フェニックスがすごい良かった。複雑に交錯するストーリーを追ったところで、特に何もないような映画。それが凄い。『FRANK』はコメディのジャンルに置かれてたけど、全然コメディじゃない。特にいい映画とも思わないし、フランクの作曲もさほどすごいとは思えないのに、フランクが頭に染み付いてまたすぐ観たくなる。変にはまっちゃった。