5月17日

晴れ。


午前中、居間を片付ける。本棚を作らないと本の置き場所が、ない。

午後、久しぶりに山川さんに会いに行く。新しいアトリエは、何台もミシンが備え付けてあり、壁には作品の帽子がズラッと飾られていて、十畳ほどの部屋は所狭しと材料や型で溢れていたそれら全てが元のアトリエ?と呼ぶにはいささかな手作りの小屋から運ばれたものだったらしく、一体あの空間のどこにこんなに物が置かれていたのか、と驚く。また色々と仕掛けていくからよぉ、と嬉しそうに話している山川さんが元気そうでほっとした。僕の珈琲も絡んでいけそうな案件もあり、相変わらずのはちゃめちゃな話ばかりのあっという間の3時間。

原稿を仕上げる。

帰って昨日買ってきた盃で酒を飲む。歯の奥がまだ痛む。何気なくワンセグ放送をつけると、情熱大陸山口晃が取材されていて、はじめのほうで旧態依然の業界のなかでなかなか自由に描けない、というようなことを話していた。

自由にやる、というのは実はものすごく考えなければならないことなのだ。保坂和志は小説は自由だ、書いてみたら書ける、何をどう書こうが好き勝手に書いていい、なのに驚くほど自由に書くことができないと言っていて、山口晃が番組で言っていたのとはちょっと違うけれど、本当に自由にやるというのは難しい。

ほんとは簡単なのかもしれないが、それがものすごく難しくなってしまっているほど僕らは様々な常識や固定観念に、自分でも気づいてないくらいどっぷりと浸かっている、それを取り除いていくのはつまり、そのことに自覚的になり剥がし落とそうとしなければできないもので自由に書く/描くといったことは、何も考えないのとは実はかけ離れた行為だ。

啓榕社は借金を一切していない(今のところ)。けっこうな開業の本や体験談ののった雑誌なんかを今まで見たりしたけれど、そこには必ず開業資金が掲載されていて、借入金や自己資金が幾ら、と出ていてため息が出てりしてた。物件探しも、固定資産税ぶんだけでもいいよ、なんてとこはどこにもない、少なくとも不動産屋に行ったら絶対に見つからない。でも直接話を聞きにいくと、本当に色々なことがわかる。

店を一軒持つために必要なものは、本当はお金ではないのかもしれない。僕は本当に0円から始めた。幸いなことに実家が近く庭が空いていて、そこから窓や扉を貰ってきたり自分ではじめて計算をして小屋を建てることがど素人の僕にもできる。そして今は週1とはいえカウンターに立ち、イベントの出店だってできる。しかも家賃がない、光熱費もない。事業計画書なんて書いてもないが、かわりに練習用半紙にスケッチやデザイン、必要なものの金額なんかを絵にして全部書き込んだ。この計画書はいつか一冊にまとめようと思っている、こういうことも全部自分の作品のつもりで取り組むと、やっぱり既存のスキームでやってしまうと作品にまではならないし(あえて、というのはあるかもしれない)何よりこっちのほうが楽しい。自由にやる、ということのほんの少しだけれどやることの、大きな大きな不安がなぜか拠り所になっている。